
「気づいたら一瞬、意識が飛んでいた——」
そんな経験はありませんか? 会議中、運転中、あるいは仕事中に、ほんの数秒間だけ意識が途切れる現象。それが「マイクロスリープ」です。
マイクロスリープは、睡眠不足や睡眠障害が原因で起こりやすく、重大な事故や健康被害につながるリスクもあります。
この記事では、マイクロスリープが起こる原因やその危険性、予防策についてわかりやすく解説します。また、いびきや睡眠時無呼吸症候群(SAS)との関連性、専門的な対処法についてもご紹介します。
目次
マイクロスリープとは?
マイクロスリープとは、極めて短時間(数秒間)だけ意識が途切れる現象のことです。
自分では眠っているつもりがなくても、脳が一時的に“休息モード”に入り、外部の刺激に反応できなくなります。
特に単調な作業をしているときや、慢性的な疲労・睡眠不足が蓄積しているときに起こりやすく、
長時間の運転中などに突然意識が飛び、大きな事故につながるリスクも指摘されています。
マイクロスリープが起きる仕組み
マイクロスリープは、脳の「覚醒状態」を保つ機能が一時的に低下し、部分的に“脳が寝ている”ような状態になることで発生します。
これは、慢性的な睡眠不足により脳が限界を迎え、「強制的に一部の活動をオフにして回復しようとする防御反応」のようなものです。
とくに注意力や判断力を司る前頭前野などで活動低下が起こると、意識が保てなくなり、
本人が自覚しないまま一時的に意識を失うような状態に陥ります。
こうしたマイクロスリープは、見た目には「瞬きが長い」「ぼんやりしている」といった小さなサインしか現れないことも多く、
本人も周囲も気づかないまま日常生活に影響を及ぼすリスクがあります。
参考:
睡眠不足と眠気|国立研究開発法人産業技術総合研究所 情報・人間工学研究領域 人間情報インタラクション研究部門 主任研究員 甲斐田 幸佐
こんな症状が出たらマイクロスリープを疑おう!
マイクロスリープは一瞬の眠りのため、本人が自覚しにくいのが特徴です。
しかし、日常生活の中で見られる“ある行動”をきっかけに、マイクロスリープの兆候に気づけることがあります。
特に、「抗眠気行動」「マイクロスリープ行動兆候」「車両挙動異常」などのパターンが見られる場合、
マイクロスリープが起こっている可能性が高いとされています。これらはまとめて「マイクロスリープ関連行動」と呼ばれることもあります。下記に当てはまる項目が多い方は、マイクロスリープの疑いがあるかもしれません。
- 無意識に顔、頭、身体を触る
- 上半身や腕を伸ばす
- 貧乏ゆすりをする
- 大声を出して独り言を言う
- 意図しないあくびをする
- 意図的に顔や身体を叩く
- 意図的な素早い動きをする
<マイクロスリープ行動兆候>
- 頭部がカクンと前に落ちる
- ゆっくりとした瞬きをする
- 目がトロンとする
<車両挙動異常>
- 運転中に蛇行運転をする
- 先行車のいない直線道路で不自然な減速が見られる
参考:
睡眠不足と眠気|国立研究開発法人産業技術総合研究所 情報・人間工学研究領域 人間情報インタラクション研究部門 主任研究員 甲斐田 幸佐
マイクロスリープが起こる主な原因
マイクロスリープは、睡眠不足によって引き起こされることが多いですが、ストレスや睡眠障害などの要因が重なることで、マイクロスリープが発生しやすくなることもあります。
マイクロスリープが起こる原因①:睡眠不足
マイクロスリープの最も大きな原因は慢性的な睡眠不足です。必要な睡眠時間が確保できないと、脳は十分に休息を取れなくなり、日中に数秒間だけ強制的に睡眠状態へ移行してしまいます。
また、睡眠時間が足りていても寝つきが悪かったり、夜中に何度も目が覚めたりすると、睡眠の質が低下し、結果的にマイクロスリープが発生しやすくなります。
マイクロスリープが起こる原因②:睡眠前のカフェインやアルコールの摂取
カフェインやアルコールの摂取は、睡眠の質を低下させ、マイクロスリープの原因になることがあります。
カフェインには覚醒作用があり、摂取後数時間は脳を覚醒状態に保ちます。そのため、夕方以降にコーヒーやエナジードリンクを飲むと、寝つきが悪くなり、睡眠の質が低下する可能性があります。
一方、アルコールは入眠を助ける作用がありますが、睡眠後半に眠りが浅くなり、途中で目が覚めやすくなることが分かっています。これにより、十分な睡眠時間を確保しても脳の疲れが取れず、日中にマイクロスリープが発生しやすくなります。
マイクロスリープが起こる原因③:日常的な喫煙
喫煙は、睡眠の質を低下させ、マイクロスリープの原因になることがあります。
タバコに含まれるニコチンには覚醒作用があり、交感神経を刺激して脳を興奮状態にします。そのため、寝る前に喫煙すると寝つきが悪くなり、夜中に目が覚めやすくなることが知られています。
また、喫煙者は非喫煙者に比べて深い睡眠(ノンレム睡眠)が減少し、睡眠全体の質が低下する傾向があります。その結果、日中に眠気を感じやすくなり、マイクロスリープが発生しやすくなるのです。
マイクロスリープが起こる原因④:精神的なストレス
精神的なストレスは、自律神経のバランスを乱し、睡眠の質を低下させる原因の一つです。
強いストレスを感じると、交感神経が優位になり、脳が興奮状態になります。その結果、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりして、十分な休息が取れなくなることがあります。
その結果、日中の眠気が強くなってマイクロスリープが発生しやすくなるのです。
マイクロスリープが起こる原因⑤:睡眠環境の悪化
睡眠環境が整っていないと、眠りが浅くなり、日中の眠気やマイクロスリープのリスクが高まることがあります。
例えば、寝室の温度や湿度が適切でない、騒音や光が気になる、寝具が合わないなどの要因は、睡眠の質を低下させる原因になります。
マイクロスリープが起こる原因⑥:睡眠障害の可能性
睡眠障害とは、正常な睡眠が妨げられることで、日中の生活に影響を及ぼす疾患の総称です。代表的なものには、不眠症、過眠症、むずむず脚症候群(RLS)などがありますが、特に睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、マイクロスリープとの関連性が強いとされています。
特に睡眠時無呼吸症候群(SAS)はマイクロスリープと関連性が強い
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に何度も呼吸が止まる疾患で、睡眠の質を大幅に低下させます。呼吸が停止すると、体が酸素不足になり、脳が覚醒状態になって呼吸を再開しますが、この繰り返しによって深い眠りが妨げられ、結果として日中の強い眠気につながるのです。
この日中の強い眠気がマイクロスリープを引き起こし、仕事中の集中力低下や、運転中の事故リスクを高める要因となります。国土交通省の「自動車運送事業者における 睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル」によると、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の患者は健常者に比べて居眠り運転のリスクが約2.4倍になるとされています。
参考:
自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル~SAS対策の必要性と活用~|国土交通省自動車局
マイクロスリープによるさまざまなリスク
マイクロスリープは一見ささいな現象に思えるかもしれませんが、日常生活や健康に深刻な影響を与える可能性があります。特に、仕事や運転中に発生すると、大きな事故やトラブルにつながるリスクが高いため、注意が必要です。
仕事や勉強のパフォーマンスが大幅に低下する
マイクロスリープが頻繁に起こると、集中力や判断力が低下し、仕事や勉強の効率が大幅に下がる可能性があります。
特に、仕事で精密な作業が必要な人においては、小さなミスが大きな問題につながることも少なくありません。また、睡眠不足による脳の疲労が蓄積すると、思考力や判断力が鈍り、創造的なアイデアを出すのも難しくなるため、日常生活全般に影響を及ぼします。
運転中にマイクロスリープが起こると大事故につながる
運転中のマイクロスリープは重大な交通事故を引き起こすリスクが極めて高いため、特に注意が必要です。
例えば、高速道路を時速100kmで走行中に3秒間マイクロスリープが発生すると、約83メートルも無意識のまま進んでしまう計算になります。この間に前方の車の異変や障害物の発生等に気づけなければ、追突事故や重大な衝突事故が発生する可能性があります。
生活習慣病や死亡リスクの高い病気を発症する可能性がある
マイクロスリープが頻繁に起こる背景には、睡眠時無呼吸症候群(SAS)などの睡眠障害が関与している可能性があります。
特に睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、夜間に何度も呼吸が止まり、そのたびに脳が覚醒するため、睡眠の質が大きく低下する病気です。その結果、日中の強い眠気やマイクロスリープが発生しやすくなります。そして睡眠時無呼吸症候群(SAS)を放置すると、高血圧や糖尿病、心疾患、脳卒中などの生活習慣病のリスクが上昇し、最悪の場合、突然死を引き起こすこともあります。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の疑いがある場合は、専門の医療機関で検査を受け、適切な治療を行うことが重要です。
マイクロスリープを予防する主な対策
マイクロスリープは、適切な対策を講じることで予防することが可能です。特に、睡眠時間の確保や生活習慣の見直しが重要になります。
マイクロスリープの対策①:睡眠時間を十分に確保する
マイクロスリープを防ぐためには、十分な睡眠時間を確保することが最も重要です。一般的に、成人は1日6時間以上の睡眠が推奨されています。
また、就寝・起床時間を一定にすることで、体内時計が整い、眠りの質が向上します。睡眠不足が続くとマイクロスリープのリスクが高まるため、寝る時間を優先する習慣を身につけることが大切です。
マイクロスリープの対策②:就寝前のカフェイン・アルコール・喫煙を避ける
就寝前にカフェインやアルコール、喫煙を控えることで、睡眠の質を向上させ、マイクロスリープのリスクを軽減できます。
カフェインは、摂取後数時間ほど覚醒作用が持続し、寝つきを悪くする原因になります。アルコールは入眠を助けるものの、睡眠後半に眠りが浅くなり、途中で目が覚めやすくなるため逆効果です。さらに、喫煙は交感神経を刺激し、入眠を妨げる要因となります。
マイクロスリープの対策③:昼寝の活用(パワーナップのすすめ)
短時間の昼寝(パワーナップ)は、眠気を解消し、マイクロスリープを予防する効果的な方法です。
特に、15分程度の昼寝を取ることで、脳がリフレッシュされ、集中力やパフォーマンスが向上します。ただし、30分以上の昼寝は深い眠りに入る可能性があり、逆に起きたときの眠気が増す原因となるため注意が必要です。
下記記事では昼寝の効果や眠り方について解説しています。併せてチェックしてみてください。
マイクロスリープの対策④:カフェインの活用(適量なら効果的)
カフェインは、適量を正しく摂取すれば、マイクロスリープの予防に役立つことがあります。
コーヒーや緑茶に含まれるカフェインは、摂取後30分ほどで覚醒効果を発揮し、眠気を軽減します。特に、昼寝前にコーヒーを飲むことで、目覚めた後の集中力を高める効果が期待できます。
ただし、過剰摂取や夕方以降の摂取は睡眠の質を低下させるため、飲む量とタイミングには注意してください。
マイクロスリープが頻繁に起きる場合はどの病院にいけば良い?
マイクロスリープが頻繁に発生する場合、睡眠の質が低下している可能性があり、適切な診察を受けることが重要です。特に、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が疑われる場合や、原因がはっきりしない場合は、専門の医療機関で検査を受けることをおすすめします。
この章では、症状や原因に応じた適切な診療科について解説します。
いびきや睡眠時無呼吸症候群が原因ならいびき治療専門のクリニックへ
マイクロスリープが頻繁に起こる場合、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が原因になっている可能性があります。睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に何度も呼吸が止まり、脳が十分に休息できないことで、日中の強い眠気を引き起こします。
いびきを伴う場合や、家族に「寝ている間に息が止まっている」と指摘されたことがある場合は、いびき治療専門のクリニックでの治療が推奨されます。専門的な治療を受けることで、睡眠の質が改善され、マイクロスリープのリスクを減らすことができます。
原因がわからない場合は睡眠外来や精神科・心療内科に
マイクロスリープの原因がはっきりしない場合や、強い眠気が続くものの、いびきや呼吸停止の症状がない場合は、睡眠外来や精神科・心療内科を受診するのが適切です。
睡眠外来では、睡眠の質や脳波の状態を詳しく検査し、過眠症などの睡眠障害の有無を調べることが可能です。また、ストレスや精神的な要因が関与している場合、心療内科や精神科での診察も有効です。
原因がわからないまま放置すると、仕事や日常生活への影響が大きくなるため、早めの受診をおすすめします。
いびきメディカルクリニックはいびき治療専門のクリニックです
マイクロスリープが頻繁に起こる場合、睡眠時無呼吸症候群(SAS)をはじめとした疾患が原因の可能性があります。睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、放置すると日中の眠気が悪化し、仕事や運転中の事故リスクを高めるだけでなく、生活習慣病や心疾患のリスクも上昇させます。
いびきメディカルクリニックでは、睡眠時無呼吸症候群(SAS)を含むいびきの専門治療を提供しており、症状に応じた適切な治療が可能です。いびきや日中の眠気が気になる方は、一度当院での受診を検討してみてください。
よくある質問
短時間の昼寝(パワーナップ)は、眠気を解消し、マイクロスリープを予防する効果的な方法です。特に、15分程度の昼寝を取ることで、脳がリフレッシュされ、集中力やパフォーマンスが向上します。